えーと、サスケが呪印にかかっちまいました。
あんっのカマ男―――!!
封印してたらこっそりやってきやがって、差し違えてもとか言ったら俺の首ちょんぱの映像送ってきやがりました。くっそう、あいつ絶対楽な死に方しねえぞっ!!
なーんて負け惜しみ言ってみてもそこはほら、実力社会なもんでね、俺は動けませんでーしたー。
...うう、ごめんよイルカ。大事に育ててきた生徒をこんな目に遭わせちゃって。
ナルトとサスケは予選通過、サクラは残念ながら引き分けで今回はここでストップだけど、いい戦いをしてた。いい成長をしたと思う。この姿、イルカにも見せてあげたかったなあ。生徒たちの成長した姿って言うのはきっと格別だろうとは思うから。

 

本戦までの一ヶ月の休養期間にナルトが俺に修行をつけてほしいと言って来たので、俺の代わりにとエビス先生にナルトを預けることにした。が、エビス先生と引き合わせた翌日になって今度はエビス先生に呼ばれてしまった。ナルトの奴め、何しでかしやがったんだっ!!と内心ビクビクしながらも待ち合わせ場所で待っていたが、なかなかやってこない。
ふー、俺、待たせるのはいいけど待たされるのは好きじゃないんだけどねえ。ま、忍びたるもの辛抱が肝心ってね。
俺はポケットからイチャイチャパラダイスの同人本を取りだした。今となってはこのシリーズも大分増えたもんだ。それでもやっぱりイチャパラシリーズの中ではこの同人本が一番好きかなあ。なんたって長年持ち歩いてたし、内容がなんとなく平和っていうか、俗世にまみれてないって言うか、ピュアな感じがするんだよね、18禁だけど。
俺はぱらりぱらりと読み進めていった。

「あああああっ!!」

と声がして俺は顔を上げた。すぐそこでエビス先生が口を大きく開けて驚愕に目を見開いていた。なんだ?どうした?と周りを見てみたが別に変わったところはない。

「あの、どうかしました?」

「かっ、カカシ君っ!あなたそれっ!!」

と、エビス先生が指さしたのはイチャイチャパラダイス。人の往来のある場所でこんなの広げちゃだめでしょうとか言われるのかな。まあ、それが正しい意見とは思うんだけど、別に中身を見せて回っているわけでもなし、けちくさいこと言わないでよ〜、と思ったが、ここは大人な俺を見せなくてはね、ナルトの先生になってもらってるわけだし。

「あー、すみませんねえ、ちょっと暇だったもので。」

と、エビス先生に、待ち合わせ時間に遅れて来たことに少しの嫌味を言いながらも俺は本を閉じた。

「い、いえ、そんなことではなく、あなた、その本どこで入手したんですかっ!?」

「は?」

俺は目を瞬かせた。が、エビス先生のあまりに真剣な表情に俺は正直に言った。

「えーと、とある人の形見分けでもらいまして。」

「そ、そうですか、それでは、譲ってもらうわけにはいきませんねえ。」

エビス先生はがっくりと項垂れた。
えっ、これ、欲しかったのかあ。でもこれ四代目の形見だしなあ、うん、やっぱりあげられないねえ。

「すみません、俺にとっても大切?なもの、だと思うので...。」

幾分自信なさげに答えると、エビス先生はそうでしょうともそうでしょうとも、と涙ながらに頷いた。
わ、わからん。なんでそんなに感動的な態度を取られなきゃならないの?

「あの、エビス先生?」

「わかっています。もう何も言わなくて結構。一人のイチャパラファンとして日々過ごしてきましたが、まさかもう伝説とまで言われている同人本を目の当たりにしてついつい子どものような態度を取ってしまって、いや、お恥ずかしい。」

え、なに?伝説?なんじゃそりゃ。っていうかエビス先生、イチャパラ愛読者なのか?なんとなく意外だ。まあ、人を見た目で判断しちゃいけないってのは分かってるんだけどねえ。

「私にも希望が見えてきました。いつの日にか同人イチャパラ、必ずや手元に置けるよう、精進します。」

よく分からないままに自己完結されてしまった。ま、まあ、いいか。俺はイチャパラをポーチにしまいこんだ。

「えーと、それで今日はどういったことで私を呼ばれたのでしょうか?」

俺は話しを軌道修正して問いかけた。

「ええ、実はナルト君の指導の件なのですが、私よりも適任の方がいらっしゃったのでそちらに移行してもらうことになりました。」

ちょっ、あんた勝手にそんなっ!まさか指導がめんどくさくなって適当に誰かに押しつけたとか言ったら殺すぞっ!!
里内で写輪眼を持ってるのは俺だけだし、サスケの指導に従事するのは仕方のないことだけど、同じようにナルトにもちゃんと俺と同等の指導を受けさせてやりたいって思ってたんだっ!それなのに勝手に降りるだなんてっ。
と、俺は喉まででかかった抗議の言葉を飲み込んだ。そして平静さを装って聞いた。

「適任の方と言うのは?」

「三忍のお一人でらっしゃる自来也様ですぞっ!!」

うわぁ、自来也様かあ...。うーん、まあ、先生の先生だし、上忍師としての器量はいい方なんだとは思うけど、確か最後に会ったのは四代目が生きている時だったから、もう10年以上会っていない。あれからそんな劇的に変わったとも思えないけど、いまいち不安だなあ。それにイチャパラの原作者なんでしょ?悪い影響、受けなきゃいいけど。
そんな俺の不安を感じ取ったのか、エビス先生は軽い調子で言った。

「カカシ君、大丈夫、自来也様は私を一撃で倒してしまえる程の力量の持ち主でいらっしゃる。それに加えてイチャイチャパラダイスの作者でもあるのですぞ!これほど素晴らしい指導者はなかなか見つかりませんぞっ!!」

エビス先生はそれはそれは嬉しそうに語っている。が、一発で倒されて嬉しがるのはどうかと思うよ?それにイチャパラの作者って所を強調されても、はっきり言ってマイナスポイントでしかありえないよその評価。

「はっきり言ってナルト君が羨ましい。私が指導して頂きたい程ですっ!」

心底羨ましそうに言うエビス先生に少々の寒気を感じつつ、そこまで言われちゃあ、文句も言えない。それにあの人の腕は確かだし、ここは自来也様を信用してみるか。

「それで、ナルトは今日からもう自来也様に師事してもらっていると言うわけですか?」

「ええ、温泉街の近くの川岸で今日も特訓しているようです。時間があったら様子見してきたら良いでしょう。やはり自分のスリーマンセルの部下は気になるでしょう?」

まあ、そうだね。初めての上忍師としての部下だし、あいつらのこと、結構気に入ってるからね。でも会いに行くのは過保護すぎるので遠慮しておこう。一ヶ月後の成長した姿を見るのが楽しみだ。

「会いには行きませんよ。一ヶ月後の楽しみですから。」

「そうですか。カカシ君はサスケ君の指導をするのですか?」

「ええ、今はまだ病院のベッドの上ですが、目が覚めたら俺の所にやってくるでしょうから、それまでは俺も自分の修練に時間を充てます。」

大蛇丸にカブトの件もあるし、そうそう俺も怠けてちゃいられないしねえ。

「ナルト君も自宅にほとんど帰らずに自来也様に師事してもらうそうです。師弟関係ともなれば、そういった所も似るものなんですね。」

へえ、ナルトの奴、自宅にも帰らずに特訓するってか!まあ、対戦相手があのネジともなれば必死にもなる、か。
エビス先生とはそこで二言三言話して別れた。ナルトも意気揚々とがんばっているようだし、俺もがんばらないとねえ。とっとと修行場に行くことにしよう。
ん、待てよ?そう言えばナルトの奴、イルカにちゃんと修行するって言ったのかな?ってかちゃんと中忍選抜試験のトーナメントに出場したって報告したのか?あいつのことだ、昨日だって説明が終わってすぐに俺の所に来たくらいだ。絶対に報告なんざしてない...。
うーん、ここは、知らせてあげた方がいい、よな?やっぱり気になってるだろうし、第2試験の時だって伝令役を買って出たくらいだし、知りたいだろうなあ。
サスケは入院したままだし、サクラは報告したかなあ?どうだろう?
...うわあ、気になる気になる。これはだめだ、修行する前になんとかしないと。
俺はなんだか追い込まれたような心境になってイルカがいるであろう、アカデミーへと向かった。
授業と言っても確か担任クラスを持っているわけではないから授業が終わったらすぐに職員室に戻るか受付に入るのだろう。俺はそれを見越して職員室の中を見られる木の上に登った。さすがイルカのストーカー歴数年。イルカのベストポジションは把握している。
運良くそこにイルカはいた。自分のデスクに座ってため息を吐いている。それがナルトたちのことを心配してのため息なのか、それとも全く別なことなのかは分からなかったが、まあ、例えもう結果を知っていたとしても自来也様に師事しているとは知らないだろう。それだけでもまあ、知らせておいて損はないに違いない。一ヶ月は会えないんだから。
俺はわざわざアカデミーの玄関へと向かって、ちゃんと正門から入って職員室へと向かった。窓から身を乗り出して報告するのはあまりにも不審すぎる。
そして職員室に着くと、出入り口に立って近くにいた職員を捕まえた。

「イルカ先生呼んでもらえます?」

職員は快く頷いた。そしてデスクに俯いてまったく周りが見えていないイルカの肩を叩いた。イルカははじめ、ぼんやりとしていたが、指し示されて俺の姿を確認すると、慌てて立ち上がった。そしてばたばたと音がしそうなくらい慌ててこちらへとやってきた。
会うのはこの間飲んだ以来だから一週間ぶりくらいなんだけど、何か、ちょっと雰囲気って言うか、態度って言うか、変わったような気がするけど、気のせいかな?以前よりなんだか意識してるって言うか、うーん、よく分からないなあ。もしかして記憶が戻った?ならもっとあからさまな態度取るはずだから思い出してないんだろうなあ。

「お久しぶりです、カカシ先生。今日はどんなご用件でしょうか?」

丁寧な口調にやっぱりな、と心の中でため息を吐きながらも、少し照れたように笑っているイルカに俺は笑みを浮かべた。

「えーと、ナルトたちの中忍試験の結果ってお聞きになりました?」

「え、いいえ、私が知っているのは第2試験を通過した所までです。今年は通過者が多いから予選をするとは聞いていたのですが、その後どうなったのかまでは。」

そうか、そこまでしか知らないか。やはり報告に来てよかった。まあ、受付にいれば火影がいるからそこから情報は伝わるかもしれないけど、早く知りたかったろうし、俺の労力は無駄にはなってないよね?
その時、予鈴が鳴り響いた。あ、これから授業が始まるのか。

「イルカ先生はこれから授業ですか?」

「ええ、話って、ナルトたちの試験のことですか?」

「はい、やっぱり詳しく聞きたいですか?」

イルカは少し逡巡していたようだったが、観念したのか、ぽりぽりと鼻の傷をかいた。これは照れている、というか困っているという感じの仕草だな。

「すみません、やっぱり過保護だなんだとは自分でも思うんですが、気になって。」

自分の教え子、しかも背にかばってまで助けようとしたある意味絆の深い生徒のことだもんなあ、知りたいよなあ。

「では今日は俺の案内で飲みに行きましょう。あー、仕事の混み具合はどんなもんでしょう?」

「今日は一日アカデミーでの仕事なので定時に終わると思います。」

「では以前と同じように6時に正門前で待ってます。授業前に呼び止めてすみませんでした。ではまた。」

俺はドロンとその場で消えるとどこ連れて行こうかな、と頭の中で思いを巡らせた。